極太の喜平チェーンだからこその迫力。「Christian Dior」の文字が半分消えかかっている状態からのビフォーアフター修理。

DIORネックレスK18新品仕上げメッキ+プレートのみロジウムメッキ+文字黒塗装入れ
ブランドものの極太の喜平チェーン、やっぱり迫力があって格好いいですね。ただ、この手のボリュームがあるゴールドアクセサリーは、愛用していればいるほど、プレート表面の傷や文字部分の剥げが目立ってきてしまいます。
今回は、ディオール(Dior)のロゴ入りプレートが付いたチェーンネックレスの、全体をK18ゴールドで新品仕上げしつつ、中央のプレート面だけをシルバー色の「ロジウムメッキ」に色分けし、さらに文字の黒塗装を入れ直すという、かなり盛りだくさんなご依頼をいただきました。
お預かりした時の正直な第一印象は、「これは見た目以上に手がかかるな」というものでした。全体的にゴールドの色味が抜けてくすんでいるだけでなく、何よりセンターのロゴプレートに無数の小傷が入って曇ってしまっています。さらに、よく見ると「Christian Dior」の黒い文字が半分以上消えかかっている状態でした。
「プレートが外れない」という誤算と、現場での迷い
加工に入る前、パーツの構造をチェックするのですが、ここで大きな誤算がありました。
このネックレス、喜平チェーンの間に四角い土台パーツが挟まっていて、そこからさらに「Diorのロゴ入りのプレート」がパカッと外せる独立したパーツだと思い込んでいました。
そう見せるような、手の込んだ別のパーツ風のデザインになっていたからです。しかし、いざ裏側や隙間をじっくり観察してみると、外せるどころか、土台とプレートが完全に一体化している構造でした。
これがなぜ厄介かというと、土台や喜平チェーンには「K18のゴールドメッキ」をかけ、中央のプレート面だけには「ロジウムのシルバーメッキ」をかけるという、全く別の色を1つのパーツの中で掛け分けなければいけないからです。
ここで、加工前にどう進めるべきか悩みました。 一つの案として、「土台とプレートの境界線に工具を入れて、無理やり切り離して別々に加工してから後でくっつける」という方法も頭をよぎりました。
ですが、無理に切り離すとブランド本来の絶妙なフォルムが崩れるリスクがありますし、強度が落ちて後々パーツが脱落する原因にもなりかねません。それは絶対に避けるべきポイントだと思いました。
リスクを天秤にかけた結果、分解する別案は捨て、分解せずに手作業で細かく「マスキング(色を載せたくない部分を特殊な樹脂で保護する作業)」をして、色の掛け分け(コンビメッキ)を強行する方針に決めました。
浅くなった刻印と、太いチェーンに阻まれる鏡面磨き
方針は決まったものの、実際の作業は想像以上にシビアでした。特に苦戦したのが「文字の黒塗装入れ」と「喜平チェーンの研磨」です。
まず文字部分ですが、長年のご愛用によってプレートの表面が摩耗しており、元のロゴ刻印の溝がだいぶ浅くなっていました。溝が深い状態なら、黒い塗料を流し込んでから表面をサッと拭き取れば綺麗に文字が残るのですが、今回は溝がほとんど残っていない状態です。
少しでも拭き取りの力加減を間違えたり、塗料が緩かったりすると、文字の中の黒インクまで一緒に剥がれてしまいます。顕微鏡を覗きながら、針の先のような細さで一本ずつ慎重に溝に色を載せ、はみ出た部分をミリ単位で調整していく作業になりました。
そして、もう一つの伏兵がこの「太い喜平チェーン」です。 コマの一つひとつが大きく、隙間が狭いため、バフ(磨き機)の大きなホイールが奥まで届きません。チェーン全体のくすみを抜いて、自分の顔が映るくらいのK18ゴールドの輝きに戻すために、細いブラシや手磨きの工具を何度も持ち替えながら、コマの裏側や折り重なる隙間まで徹底的に磨き上げました。
幅広のチェーンは少しでも磨きムラがあると一発で目立ってしまうため、とにかく指先の感覚を研ぎ澄ます必要がありました。
実際に加工して分かった、仕上がりのリアル
格闘の末、無事に完成した状態の画像です。
全体に濃厚で上品なK18ゴールドメッキを施し、中央のプレート面も綺麗にロジウムのシルバー色へと色分けをして、消えかかっていた「Christian Dior」の文字もパキッと黒く蘇らせることができました。
ただ、ここで「完璧に直りました、問題ありません!」とだけ言って終わらせるつもりはございません。プロとして、仕上がりのリアルな注意点もお伝えしておくべきだと思っています。
今回の加工は、文字の刻印が浅くなっていたため、技術の限界まで溝を追い込んで色を入れましたが、どうしても「新品と全く同じ溝の深さ」に戻ったわけではございません。そのため、お戻しした直後は非常に綺麗ですが、今後またガシガシと硬いものにぶつけたり、強く擦ったりすると、新品の時よりも文字の黒塗装が落ちやすい可能性があります。
一体型パーツを手作業で修復する上での、どうしても避けられない物理的な限界があることは、事前に知っておいていただきたい点です。
この加工が「向いている人」と「向いていない人」
今回の「ゴールドとシルバーのコンビメッキ+文字塗装入れ」は、すべての方におすすめできるわけではございません。お手持ちのアクセサリーの状態によって、向き不向きがはっきりと分かれます。
向いている人 「お店ではもう売っていない廃盤品だから、多少の経年変化は味として受け入れつつ、あの頃のギラッとした輝きと、ゴールド×シルバーのコントラストを取り戻したい」という方。
思い出の品をもう一度現役で格好よく着けられるレベルまで復元することにおいて、今回の方法はベストだと思います
向いていない人 「顕微鏡で見ても、1ミリのズレも隙間もない、直営店の工場から出荷されたばかりの『完全な新品』と100%同じ状態にしたい」という方。
外せない一体型パーツに手作業でマスキングをして色の掛け分けを行うため、どうしても肉眼では分からないレベルのミクロン単位の境界線のブレは生じます。完全無欠のクオリティを求める場合は、ご期待に添えないかもしれません。
現場の職人から一言
ブランドもののアクセサリーは、デザインが優れている分、修理する側の人間にとっては「別のパーツに見せておいて、実は一体型か……!」と頭を悩ませる構造の連続です。今回のディオールのネックレスも、まさに職人としての引き出しを試されるような現場感のある仕事でした。
私たちは、お預かりしたものをただ右から左へ機械に通すようなやり方はいたしません。「パーツが外れないなら、どうやってマスキングするか」「刻印が浅いなら、どうやって色を定着させるか」、その都度、そのお品物の状況に応じて加工方法を考えております。
直営店で「これは構造上直せません」と言われたものでも、やり方を変えれば、こうしてまた格好よく着けられる状態に戻せる可能性は十分にございます。
「もう寿命かな」と諦めてしまう前に、まずは一度、そのネックレスの今の状態をLINEで見せてください。現場の人間が本音で、どう直せるかをしっかり考えさせていただきます。
ご依頼いただき、ありがとうございました。
修理加工前

修理加工後




